エッセイその4:手書きの楽しみと苦しみ。

とにかく妥協は許されませんでした。手書き、手描き。書く、描く。

この本には、ふらふらとした線で、独特な絵がたくさん載っています。それがハヤテノの画風です。ヘタウマという人もいれば、味があってほっこりするという人もいます。


見た瞬間に自分に合わない、と思う人もいるでしょう。絵の好みは人それぞれなので、仕方がないと思います。


マーカー専用の紙にドローイングペンを使って線を描き、色鉛筆やマーカーで着彩した手描きのイラストです。


お店の情報や紹介文は別途デジタルで作るため、アナログ段階ではただイラストを描くだけでなく、レイアウトを意識して描きます。


さらに編集者がこだわるのは、リズムです。

文章でも絵でも配置でも、同じリズムが続くのはNG。そのためレイアウトもアレンジしていきます。


アナログ制作→スキャン→レイアウト→提出→修正が入る→アナログ修正→スキャン・・・この作業がOKになるまで続きます。80店舗分、さらに前後の説明ページも。


編集者の手書きへのこだわりはハンパない。

「編集者のこだわり、ハンパない!」

と友達に会うたびに言ってました。


同じ編集者が担当した「東京わざわざ行きたい街の本屋さん」の著者も、「あの編集者ハンパない!」と言っていました。


そのこだわりのおかげで、本ができあがり。


優秀な編集者との出会いが、人を著者へと作家へと変えていく。そんな体験をさせてもらっています。長い間、制作を続けていましたが、いまひとつ抜き出る活躍ができていない。


「自分に厳しい意見や客観的なアイデアを出してくれる人」の必要性を感じていました。

プロデューサーなのか、デザイナーなのか。師匠なのか。


僕の場合は編集者でした。僕の個性と実績からいろいろな企画を立ててくれて、早くも2冊目の本を一緒に作っています。


大量の絵と迫り来る締め切り、利き手である右手中指のタコがひどくなる日々で、「あなたの手描きを信頼している。きっといい本ができる。」と言われながら、なんとかモチベーションを維持し、完成させました。


重ねると高さ5センチ以上になる原画と原稿が、編集者とデザイナーの手によって、すばらしい誌面に変わっていくたびに、やっぱり本ってすごいなと感動します。


この長時間にわたる大量の作業を経験したおかげで、アナログの制作依頼にも自信を持って答えられる力を手に入れました。そしてアナログ作品を描くスピードがあがりました。


本をつくるという、とても楽しくてとても苦しい、やりがいのある時間は、自分の創作レベルを大きくステップアップさせたようです。出版社のみなさんに大変感謝しています。


スマートフォンやタブレットで、上手な絵が簡単に描ける時代です。どんどん試していただきたいと思います。


一方で、オリジナルの線を走らせるアナログ派の需要もあります。

 

絵が上手とは言えないけれど、自分の絵をあとで見返したときに「なんだかわからないけど、好きだな」と思っています。そんな感じで今日も絵を書いています。(つづく)





ハヤテノコウジの「東京わざわざ行きたい街の文具屋さん」ウェブサイト

「東京 わざわざ行きたい街の文具屋さん(ジービー)」の著者による参考ウェブサイトです。